アートの値段

2017年に開催されたオークションでレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたイエス・キリストの肖像画『Salvator Mundi』が4億7544万ドル（当時の日本円にして約508億円）で落札されるなど驚愕するような値段で作品の取引が行われているアート市場であるが、なぜそれほどまでに高額で取引されているのか、その背景に関しては不明瞭な部分が大きい。本書はそうした一般的な市場原理とは異なる尺度が用いられる〈アート市場〉という特殊な尺度が用いられる場においてどのような取引が行われているのかについて、経済学的理論モデルやデータ分析、さらに参与観察などの社会学的方法のほか、関係者へのインタビューなどをもとにその特徴を分析したもの。ここでは新たな芸術家の台頭が繰り返すように価格を調節するといった業界での暗黙の了解をはじめ、一次と二次の二重構造で連なる市場の構造についてや、一般的な市場原理とは異なるアート市場での特殊な値段の位置付けに至るまで、様々な観点から多くの人々が浮かべる謎が丹念に解き明かれている。また長らく対峙関係にあるとされてきた〈美〉と〈商業〉は、「持ちつ持たれつな関係」を築くことで共存を図ってきたのではないかという問いを元に、芸術と経済の関わりについても社会学的な視点から紐解かれており、芸術家や画廊オーナー、コレクターといった立場にならない限りは立ち入ることのないアート市場の仕組みについて学びを深めることができる。

TAG：オラーフ・ヴェルトハイス,中央公論新社