未完の始まり：未来のヴンダーカンマー

豊田市美術館に隣接する形で新たに建築家・坂茂設計の豊田市博物館が開館するにあたり企画された展覧会「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」に際して刊行された図録。 「ヴンダーカンマー(驚異の部屋)」とは、15世紀のヨーロッパの貴族たちが自宅に絵画や彫刻作品に加え、さまざまな土地から動物の剥製や植物標本、地図や天球儀、東洋の陶磁器など美しいものや珍しい品々を自宅の一室に飾っていたことにはじまったもので、「ミュージアム」という概念が生まれる起点となった。 ミュージアムは史料保全や人々の好奇心を刺激するなど重要な役割を担ってきた一方で、集める側と集められる側の不均衡や異文化に対する好奇のまなざしも潜んでいたことは否定できない。多くの収蔵品は略奪や盗難によって入手されたものであり、白人至上主義と合わせて疑問の目を向けられるようになりつつある。グローバル化が進み世界が徐々に同質化していく中で、課題としてそれぞれの地域の風土や伝統などを維持する重要性が問われており、ミュージアムには他文化や他民族と、どのようにして出会う機会を設けられるのかという新たな役割を担うことが求められている。本展覧会はいまだに理想の「ミュージアム」はどこにもないという逆説的な発想に基づいて、ベトナムや旧ソビエト連邦、メキシコなど多様な生い立ち・背景を持つ5人の作家とともに、歴史や資料を調査・収集し、現代のテクノロジーを交えることで時を超えて事物を編み直し、「未来のヴンダーカンマー」を目指すという実験的なもの。 展示風景で構成されたカラーページと、論考や資料をまとめたテキストページを2つの冊子で別綴じにし、図版を見ながらテキストが読める造本により、展覧会の真髄をより理解できる仕上がりとなっている。

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