IRON RIBBON

距離や時間、物の大小などを現実とは異なるスケールに幻覚する疾患“不思議の国のアリス症候群”である写真家・木村和平は、成長とともに喪失することが多いとされるこの症状が治る前に現在目にしている世界とその感覚を残すべく、時折視界に広がる対照的な「無彩色で硬質なもの」と「発色がよく柔らかなもの」が混ざり合う様子を自ら『石と桃』と題して作品作りに取り組んできた。
この『石と桃』シリーズでは自身のパートナーをモデルに、お互いが好きな老舗の趣あるホテルを舞台として事前に描いたコンテや文章を元に演出を加えながらセットアップで撮影を行っているが、本書はこのシリーズを制作する中でふいに撮影したオフショットを中心にまとめられたスピンオフに位置付けられる一冊。
本書のタイトル『IRON RIBBON』は、作者が写真をはじめる以前のファッションに夢中になっていた10代の頃に巡り合って以来、長年所有し続けている可愛らしいリボンの形でありながら、冷たい鉄製の「チョーカー（首飾り）」に由来するもの。
またこのタイトルには穏やかでありながら冷静かつ固い意志を持つパートナーの姿も重ねられており、作者はそれぞれの相反する要素が一つの中に同居している様子とその佇まいに惹かれていると述べている。

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