THE NARCISSISTIC CITY

雑誌や広告など幅広い分野で活躍する写真家・ホンマタカシが、日本とアメリカの様々な都市の建物の一室からピンホールカメラで撮影した風景写真を収めた作品集。写真家としての経験を積んできたことで、カメラを体の一部のように意のままに扱い、思い通りの写真を撮れるようになった一方で、それが「予定調和的」であることに違和感を覚えた作者は、カメラの「原始」である『カメラ・オブスクラ』へと立ち返った。この『カメラ・オブスクラ』は、ラテン語で「暗い部屋」を意味する言葉で、真っ暗な内部へと一方の壁面に開けた小さな穴から光が差し込むと、外部の景色が反転して映し出される原理であり、その歴史は古代ギリシャの時代にまで遡る。作者はこの『カメラ・オブスクラ』を用いて、これまで「失敗」として排除してきた「不明瞭さ」や「感光」を表現として取り込み、長時間露光を行っている間の天候の移り変わりによって得られる「偶発性」へと次第に魅了されてきた。ページ内に「両観音開き」が採用されるなど製本においても趣向が凝らされており、作者が新たに切り拓いている表現の地平を体感することができる一冊。

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