岸

写真家であり小説家でもある清水裕貴の初写真集。十年間に渡って、身投げした姫が龍神になった川や、生贄が捧げられた池、毒を浄化する湖に雨乞いのお祭り、水の喜びを歌う人たち、オアシスの街の跡や古代湖が干上がった砂漠など水辺にまつわる場所を写真に収めながら、水神にまつわる伝承や、水害などの記録を集めることで、仮想の世界を立ち上げ、言葉を綴ってきた作者は、写真と言葉を重ねて重層にすることで、新しく風景を立ち上がらせようと考えた。水は人間が生きる上で必要不可欠なものである一方で、洪水や津波といった水害などが起きると人間の生活に大きな災いをもたらす存在へと変わってしまう。そのため人は時に川を神に見立てたり、時には海に怪物の影を見つけたり、湖の水面や水と人の関わりから生きている時間を問い直すことで、水の循環に巻き込まれている存在の切実な物語を探っている。写真によってつくり出された抽象的で不思議な時空と、言葉の世界とを融合させることで写真と文章の両面から「水」について考証を重ねた一冊。書籍内にはネガフィルムを黴や海水で腐敗させた写真も中に添えられており、写真が風景に蓄積された過去や他者の声に耳を澄ます装置としての写真の可能性も模索するなど実験的な内容が詰まっている。

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