月の裏側へ

馬込将充による初の写真集。 一見、私的な関係性や身の回りの風景を綴った写真には、光と影また存在と揺らぎが、静かにつよく同居している。目の前のいまに結晶している、目には見えない過去の時間、日々の錘や潜熱、未来への足どり。それらを映すだす手法として写真が用いられている。写された場所の多くは、人と建物が共に在るありふれた光景だが作者にとって建物とは人が構築し人を護りつつ、同時に人を閉ざすものにも見えている。そしてその建物の窓は、ひとつひとつに生活を灯しながら、一方で固有のものを覆い隠している。 身体と環境、個と街とのあいだに生じる親愛と軋みを写真を通すことで世界に向き合おうとしている作者を通して紙面に静かに写し出される痛みや憧憬は、時間を跨ぎ、個を超えて息づくと予見される。引力で引かれ合い離れることのない月と地球のように光と影も離れられない。そうした狭間で生まれるものを追求した一冊。

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